あなたがそこに立って見ている、手のひら。

寒い冬の一週間を春の半分くらいの長さだと思って過ごす間に近づく春が本当の春よりまだ少し冷たいのはきっと生まれて間もないからでしょう。空気に溺れる人間を考えてみて水の中の魚は笑っています、凍った湖の中に魚が溺れていると氷の中では魚は溺れてしまいます、人間は魚と違って氷の中では溺れずに死んでしまう。溺れた魚は死んでしまいます。溺れずに死ぬことと溺れて死ぬことはずっと遠い二つの別のことです。冬が来て湖が凍ります。年が明けるとお墓参りに行く。窓口の営業時間も変わってしまう。祝日と同じです。花を買えません。窓口の横にある自動販売機でお供物のジュースを買ってくるよう言われるのでおばあちゃんに500円をもらって、お釣りを返さなくてもいいです。別の自動販売機で同じジュースを買って飲みます。お釣りを返さなくてもいいです。花を買えません。湖の周りに花はたくさんあります。それを掴まえてしまうとおもしろいです。花がそこにあるのはそこがもう春だからでした。溺れた魚は風に吹かれて湖面に落ちる花びらを見て春が来たのだと思います、思い出します。その花びらを拾います。あたたかいです。体温は上下を繰り返すのにそれを誰も季節だとは思いません。あなたは春ですか? 春は眠っています。あなたはここで拾った花をお墓に飾るのでみんな喜んでいます。そこで眠って、あなたは春を待ちます。雪が降って、ここに春を手作りします。あなたがそれを掴まえて、ここに春が来たことを思い出したらきっと笑うでしょう。